第10章 里帰り
「若奥様、大丈夫ですか?」
塚本郁也が立ち去った後、使用人はすぐに古川有美子を心配して尋ねた。
彼女はまだ若く、自分の娘よりほんの数歳年上なだけなのに、塚本家と塚本郁也からこのような扱いを受けている。思わず同情の念が湧いてきた。
「私は別に...」
古川有美子は言葉の途中で突然止まった。
彼女は考えた。どう説明しても、塚本郁也は彼女が計算高く塚本家に嫁ぎ、塚本お爺さんと共謀していると思い込んでいる。
それならいっそのこと、その役を演じきってしまおう。
どうせ罪は着せられているのだから、損をするだけではもったいない。
古川有美子は舌先を軽く噛み、目を赤くして、涙がぽろぽろと頬を伝い落ちた。
「若奥様、泣かないでください。どうしたんですか?」
古川有美子が涙を流すのを見て、使用人も慌てふためき、どう慰めればいいのか分からない様子だった。
古川有美子は目を擦りながら、声を詰まらせて言った。「彼は私と里帰りしてくれないの。明日、お父さんとお母さんはきっと心配するわ。お母さんはきっと悲しむわ、うぅぅ...」
古川有美子がこんな時でも両親のことを考え、孝行心があることに、使用人はすっかり感動してしまい、ますます彼女に同情した。
「若奥様、ご心配なく。私がご主人様にお話しします。きっと若旦那様を行かせるよう言ってくださいますよ」
古川有美子は涙目で言った。「それはちょっと...郁也が行きたくないのに無理強いするのは、やりすぎじゃないかしら?」
「やりすぎなんかじゃありませんよ。結婚したからには、その責任を果たすべきです。あなたよりずっと年上なのに、こんな若い娘をいじめるなんて」
使用人の憤慨した言葉を聞いて、古川有美子は自分が塚本お爺さんの前で何も言わなくても、この一件は上手くいくと確信した。
翌日になった。
古川有美子が塚本家から用意された里帰りの贈り物を確認していると、塚本郁也が不機嫌そうな顔で書斎から降りてきて、彼女を冷ややかに睨みつけた。
「やるじゃないか。お前のことを見くびっていたよ」
古川有美子は口をとがらせ、男の非難など気にも留めなかった。
「江さん、念のために言っておきますが、私たちは結婚したんです。これはあなたの義務ですよ」
「年をとっているからって、私みたいな若い娘をいじめないでくださいね?」
昨日の使用人の言葉が気に入った古川有美子は、すでに塚本家に嫁いできたのだから、きちんと嫁の役割を演じている。
塚本郁也が夫として少し協力したところで何の問題があるというのだろう?
塚本郁也は額に黒い筋を浮かべた。くそっ、またこの女は年齢のことを言い出した。
何が「年をとっている」だ?まるで自分が七、八十歳であるかのような言い方だ。
不満を表そうとしたその時、塚本郁也は視界の端で階段を降りてくる塚本お爺さんに気づき、言おうとしていた言葉を飲み込んだ。
古川有美子も塚本お爺さんに気づき、心臓がドキリとした。先ほどの言葉を聞かれたかどうか、どれだけ聞こえていたのか分からない。
しかし、すぐに古川有美子は落ち着きを取り戻した。
お爺さんは彼女に嫁に来いと言っただけで、塚本郁也を好きになれとか、彼に取り入れろとは言っていない。今のように互いに嫌い合っているのは当然のことではないか?
心の中の取り留めのない考えを押し殺し、古川有美子は塚本お爺さんに笑顔を向け、おとなしく「お爺さん」と呼びかけた。
塚本お爺さんはうなずき、「準備はどうだ?もっと何か足してやろうか?」
「いいえ、結構です」古川有美子は急いで首を振った。「もうたくさんありますから、お父さんとお母さんはきっと恐縮してしまいます。いくつか持って帰るだけで十分です」
傍らの塚本郁也は軽蔑するように鼻を鳴らした。
偽善者め。
古川家はできるだけ多くもらおうとしているのに、遠慮なんかするはずがない。塚本家が渡した二十の事業契約と十数件の不動産権利証を、古川家はちゃんと受け取ったではないか。
今さら何を見栄を張っているのか?
次の瞬間、塚本郁也は塚本お爺さんから厳しい視線を向けられ、あまり調子に乗るなという無言の警告を受けた。
そして、塚本お爺さんは古川有美子に言った。「多くはない。全部持って帰りなさい。これは当然の礼儀だ」
そう言った後、塚本お爺さんは再び厳しい目で塚本郁也を見つめ、「親戚の家に着いたら、きちんとした態度を取るんだぞ。塚本家の恥にならないようにな」
「有美子、お前が見ていてくれ。こいつがちゃんとした振る舞いができなかったら、帰って来てから私に言いなさい。しっかりしつけてやる」
「まさか、お爺さん。郁也お兄さんはそんな人じゃありませんよ」古川有美子は笑顔で、塚本お爺さんの前で塚本郁也の体面を十分に守った。
塚本郁也はそれに感謝するどころか、この小娘がずる賢く、老人の前でいい子ぶっていると更に思った。
二人はすぐに古川家へ向かう車に乗り込んだ。
到着すると、遠くから既に門前で待っている古川会長と古川奥さんが見えた。
車が止まるとすぐに、古川有美子は籠から解き放たれた小鳥のように、彼らに向かって駆け寄った。
「うぅぅ、お母さん、会いたかった」
古川有美子は古川奥さんに飛びつき、彼女を強く抱きしめ、親密にしばらく甘えた後、手を引いてぴょんぴょん跳ねた。
明るく楽しげな声、輝くような少女の姿は、春の遠足から帰ってきた嬉しさでいっぱいの子どものようだった。
純粋で無邪気な様子。
塚本郁也はそれを見て少し呆然とした。目の前の古川有美子と、あの策略に満ちた、鋭い言葉で彼と言い争う姿を結びつけるのは難しかった。
一人の人間がこれほど複雑で極端な二面性を持つことができるのだろうか?
古川奥さんは古川有美子にじゃれつかれて、笑みが絶えなかった。眉と目は三日月のように優しく弧を描いていた。
「もういいでしょ。もう結婚したのに、まだそんなに子供っぽくて。新しい婿に笑われるわよ。ちゃんとしなさい」
古川有美子を叱っているようでありながら、古川奥さんの声は極めて優しく、目には常に笑みを湛え、隠しきれないほどの溺愛を表していた。
古川有美子は甘えん坊のように古川奥さんの首に腕を回し、彼女にしがみついたまま、口をとがらせて言った。「結婚しても、私はまだあなたたちの娘よ。お母さん、もしかして私がいらないの?」
塚本郁也のことなど、誰が気にするものか。
「何言ってるの、誰があなたをいらないなんて言ったの?」古川奥さんは愛情たっぷりに古川有美子の鼻をつまんだ。
古川有美子はさらに嬉しそうに、いつものように唇を尖らせ、母親に甘えた声で言った。「お母さんが一番大好きだってわかってたわ。チューして?」
古川奥さんはいつものように顔をそらし、溺愛と嫌がるような声で言った。「あっち行きなさい、また私にヨダレをつけるつもり?キスしたいなら、あなたの主人にしなさいよ」
そう言いながら、彼女は古川有美子を塚本郁也の方へ押した。
この行動は、古川有美子が全く予想していなかったことで、笑顔は即座に消えた。
しかも彼女は先ほどまで古川奥さんに全身を預けていたので、支えを失い、そのまま押されて塚本郁也の方向へ傾いていった。
古川有美子は心の中で慌てふためき、頭の中には一つの考えしか残らなかった。やばい!
塚本郁也の性格からすれば、きっと横に避けるだろう。そうしたら彼女は両親の前で恥ずかしい思いをして、地面に重く倒れることになる...
その時、強い手が古川有美子の背中を支えた。
もう一方の手が彼女の肩を優しく握り、姿勢を安定させるのを助けた。
古川有美子は信じられない思いで顔を上げ、静かで深い眼差しと目が合った。奥深く、暗く沈んだ、人を引き込みそうな深い淵のような目だった。
古川有美子は少し驚いた。塚本郁也が彼女を受け止めるなんて思いもしなかった。
どういうこと?太陽が西から昇ったの?
















































